「アーティスト」実作/発表コース 卒業生インタビュー

 
2023年度の「アーティスト」実作/発表コース(以下、アーティストコース)を受講し、2024年4月にPARA神保町4階で個展「星痕」を開催した浦丸真太郎さんに、アーティストコースでの学びや出会いについてうかがいました。
 
佐賀県生まれ。大分県立芸術文化短期大学専攻科造形専攻卒業。 幼少期に親族である叔父から性虐待を経験する。自分自身の中に芽生える復讐心や、無意識に他者を傷つけることで心のバランスを図ろうとしていた自分に絶望し、人や社会から自ら孤立しようとしていく。そんな中、他者との関わり合いを断つ先に辿り着いたのがものづくりで、奇しくもそのものづくりが孤独だった自分と他者をもう一度繋ぎ合わせていた事に気が付いていき、以降作品制作の中で虐待経験による性的なトラウマや自己否定など、これまで自分自身が捉われてきた〝心の傷〟について考察を続ける。 様々な人の身体に残る傷痕の写真を針と糸で縫い合わせた絵画や立体作品、手縫いで書き起こされた詩や自分自身の身体に他者の傷を転写していくパフォーマンス、インスタレーションなどを制作している。 主な個展に「星痕」PARA神保町(2024) 「メロン」HIGURE 17-15 cas (2023) 「縫合」 美学校スタジオ (2022) 主なグループ展として「ホーム・ランド」 ゲンロン五反田アトリエ ギャラリー201 (2019) 「他者の眼を気にして漂流する」ターナーギャラリー(2022)
 
 
ーー浦丸さんは2023年度のアーティストコースを受講されていましたが、近況はいかがですか?
卒業して4ヶ月経ちましたね。自分は、日常生活で考えたり行動したりしている問いについて、答えが出なくてどうしようもないところまでたどり着いて作品や展示にすることが多いです。それに対してリアクションをもらうことで、また次の問いが生まれるのですが、今はちょうど、PARAで開催した個展から出た答えや問いと向き合っている状況です。
 
ーーそれはどんなことですか?
恋愛や人間関係のつくりかたに向き合うことになって、例えば、人との距離感ってどうしてたっけ?みたいなところからスタートしています。個展をやったことによって日常がガラッと変わる経験をして、PARAではすごく濃い展示をすることができたなぁと思っています。これまでにない密度や濃さでリアクションしてくれる人が多かったんです。だから、その人たちがくれた言葉や反応に向き合うのに時間がかかりそうだなと今は思っています。
 
 
ーー個展の概要をあらためてお聞かせいただけますか?
「星痕」というタイトルで、自分の身体の傷に焦点を当てた作品を発表しました。自分は幼少期に性被害を受けたのですが、その時に残った身体の傷は、愛することと傷つくことから逃れられない自分が背負う傷みたいなもので、大人になった今でも人と関係を結ぶたびに傷ついたり傷つけたりしてしまう。
展示では、鑑賞者に作家の身体の好きな場所にキスマークを残してもらいました。それから、鑑賞者の傷の話を聞いて、それをキスマークとして受け取り、壁に掛けている作品に転写していきました。会期中、自分の身体にもどんどん傷が増えていくし、いろんな人の傷の体験を聞いて壁にかけられている作品にもどんどん傷が残っていくという展示でした。
初めてパフォーマンスの手法も取り込みながらつくった作品でした。以前はペインティングだけでしたが、自分の身体を用いたり何かを演じるということが、PARAに行ったことによって自然と入ってきたのではないかと思っているところです。
 
 
ーー1年間受講していただいて、その前後でどんな変化がありましたか?
PARAには美術と演劇の軸を持っている人が半々くらいいるイメージがあります。その人たちが自然と同じ授業を取っていて混じり合うというのが、自分の中ではこれまでにはなかったんです。クラスメイトの発表を見に行ったりもしたのですが、例えば、演劇の人は、その場で自分の身体を使いながら鑑賞者を感動させて、その気持ちを持ち帰ってもらうということをされている方がたくさんいて、衝撃を受けました。これまで絵画をやってきた身からすると、作品を人に所持してもらうことで自分の活動が広がっていくと思っていたんです。でも、絵画も展示しているけれど、自分自身がその場にいることやコミュニケーションを取ることにもすごい意味があったんだと思えて。コミュニケーションを取って目の前の人の心を動かしていくことの重要さは、PARAに行ってすごく感じることでした。
あとは自分の作品を作ることや発表することがライフワークに近づいた感覚はありますね。これまでは展覧会のためにテーマを見つけてその時だけ向き合ってきた気がしますが、PARAに行ってみて、日常の中で見つかった問いや、展覧会で発表はしなくともいま考えていることを聞いてもらったり、誰かの話を聞いたりし続けながら、ライフワークとして制作発表、コミュニケーションやコミュニティづくりが自然とできるようになった気がしています。
 
 
ーーアーティストコースでは月3~4回のコースミーティングがあり、浦丸さんはほぼ皆勤賞でしたね。受講者が集まって自己紹介をしたり最近考えていることややりたいことをプレゼンして、講師や他の受講生からコメントをもらったりしていましたが、いかがでしたか?
自分は著名なアーティストの作品はあまりわからないのですが、実際に関係性のある人の作品を見聞きするのは好きで、その人がどんな人でどういった問題意識を持ち、どういうチャレンジや意図があってつくったのかという話は面白いなと思っています。最初のプレゼンの段階からその人の作品の価値や意味やエネルギーが発生していたり、コミュニケーションの中から出来上がっていったり可能性が見えてきたり……その中で芸術とか表現とか、人間の面白さみたいなものに触れさせてもらえたような気がして。こういう場って自力でつくるのは難しいから、本当に重要な時間だったと思うし、今後もあればいいなと思います。
 
 
ーー先ほど別のジャンルの方とも一緒にクラスを受講したという話がありましたが、その中でも印象に残ったクラスはありますか?
「インタビューの方法」「ゲームと演劇の間をつくる/儀式制作講座」と、あとは「権力と欲望と演劇のサービスエリア」もめちゃくちゃ面白かったですね。展示で使うピースをクラスを受けながら集める感じで受講していたので、そこで考えていたことをフルで使って展示をつくりました。
「インタビューの方法」では、他の受講生が社会的な問題を掲げている方が多くて、自分も最初はその方向でインタビューしようと思っていたんですけど、最終的には自分のことを好きでいてくれる人に、自分のことがなぜ好きかをインタビューしました。自分としては課題の意図に合っているのか最終日まで分からなくて、提出するのやめようかなと思っていたんですけど、成果発表のときに「よかったよ」と言ってくれる人が多くて、講師の飯山さんもご自身の大学の授業で参考作品として取り扱ってくださって、受講してよかったなぁと思います。
「ゲームと演劇の間をつくる/儀式制作講座」は、「儀式」という言葉に惹かれて受講しました。自分は宗教的な構造に興味を持っていて、「美術」というくくりではなく「儀式」というくくりでやってみると、自分のリミッターが外れるんじゃないかと思って。美術業界の難しいヒエラルキーとかいざこざに入っていく逞しさが自分にはないのですが、「儀式」なら自分の世界に戻れる気がして、「儀式」の要素を入れることでそういったものと距離を保ったり対峙できるんじゃないかと考えました。
 
ーーなるほど。それらが個展にもつながっているんですね。
そうですね。クラスで向き合った成果物をためていって展示で全部並べるというふうにすると、スムーズに展示ができるからライフワークみたいに制作できたんだと思います。階段を1段ずつ登っていく感じで、ちょっとプレゼンして、都度成果物も見せてという感じ。だから、みんなにもPARAをそういうふうに使ってほしいと思いますね。
 
 
ーーアーティストコースでは、企画をプレゼンするとPARA神保町4階のスペースを使えるというシステムがありますが、いかがでしたか?
東京で個展をしようと思ったらお金がかかってしまうけれど、PARAでは何度でも個展ができると考えると、言ってみれば授業料はタダみたいなものですよね。かつ、いろんな講師や受講生が関わっている場所なので、うまくコミュニケーションを取れば、たくさんの方に見てもらうこともできるし、その人たちが何か言葉を残してくれたり共有してくれたりします。縦横のつながりがある場所で展示することで、共通意識を持った人に見てもらえて、広がりが生まれる。他の場所ではできない密度になりますよね。新しく入る方には大きなきっかけになるよってことを是非伝えたいです。
 
ーー作品を見たことはあるけれど話したことはない方もいたと思います。話したり交流したりするとまた違った印象を受けたりすることもありますよね。現代美術と哲学と演劇がPARAの三本柱で、ジャンル横断的なクラスが開講されていますが、実は、その授業に集まってくださった受講生もさまざまです。
PARAのクラスには、特殊な経験や技術や知識を持った人たちや、バックボーンが豊かな人たちが紛れ込んでいる気がして、こんなに面白い人たちと簡単につながれて、そこで出会った美術以外のたちにも展示を見てもらえるのはなかなかない経験でした。クラスもマニアックですね。自分はこれまで絵画のテクニックのようなわかりやすい授業しか受けたことがなかったので、自分の関心事と表現が密接につながっているクラスはPARAが初めてでした。自分は大学生ではもはやないですけれど、ふらっと入学して関心があるクラスを取る選択肢を取れた1年間がすごくよかったです。
あと、PARAでは、ヒエラルキーがあって与えられたものを学んでいくというスタンスではなく、自主性や積極性を伸ばしてくれた気がします。だから、すごく楽しかったです。いつ訪れてもそのときに出会う人たちがいい影響をもたらしてくれる気がするので、またそういう機会が持てるといいなと思います。
 
 
ーー公演や展示もいろいろやっているのでまたふらっと来てほしいし、卒業後も「こういうことやりたいです」というお話があればぜひご連絡いただきたいです。4月の個展を踏まえていろいろ向き合っているとのことでしたが、今後の予定はありますか?
いまは人との関わり方や接し方が大きく変わって、そこで見えてくる問題がまた次の展示や問いになっていく気がしています。具体的な日程とかはまだこれからですけど。PARAに出会ったのが、ガツンと考えて悩んだりしたタイミングだったのもよかったのかもしれないです。バラエティ豊かなクラスも本当によかったし、今日もいろんなことを思い出せてよかったです。ありがとうございました。
 
 
2024.8.15 インタビュー:三毛あんり 編集:石幡愛
 

 

「アーティスト」実作/発表コース

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